土地と人を「むすぶ」

ナナッチャむすび

宮崎市の西側、自然豊かな土地が広がり、鰐塚山のふもとに位置する田野地区。広大な土地を利用した一次産業が盛んなこの地区では、干し大根、お茶、漬物、焼酎など宮崎を代表する特産品が数多く生まれています。自然とともに暮らし、その恩恵を受けた生活が現在もつづくこの土地は、四季の変化に呼応するように周りの景色も変わっていく。そんなことを訪れるたびに感じます。

ナナッチャという個性

「ナナッチャ」という言葉を聞いたことがありますか?
多くの方にとって耳慣れない言葉かもしれません。私たちがこの言葉を知ったのは田野の人々とひんぱんに接するようになってから。
ナナッチャとは田野地区で主に使われていた方言で、労働作業のあいまにとる休息や間食のことを意味するそうです。「ナナッチャせんね?」「ナナッチャすいいや?」という形で使われ、畑仕事をする人々のあいだで長く親しまれてきました。車や機械のない時代、農作業は今以上に重労働です。一日中外で仕事をするには昼食の時間以外にも休息を取らないとやっていけません。そのため、ナナッチャの時間をもうけ、作業をしていたみんなであつまり小腹満たしと気分転換をする。そうして英気を養い作業へ戻っていくというのが通例でした。

ナナッチャの時間には自家製のお茶やおむすび、漬物、果物などが振舞われていました。小腹満たしに食べていたものの材料は、ほとんどが自宅や自身の畑、猟(漁)でとれたもの。自給自足の生活が根付いていたため、自分たちでまかなえるものはすべてまかなう生活がそこにはありました。それは現在の農家さんたちもそんなに事情は変わらないようです。

調べてみるとナナッチャは10時と15時におこなわれていたそうで、「ナナッチャ」の語源は一説によると昔の時刻で16時ごろを指す「七つ刻(ななつどき)」がなまったのではないかとも言われています。ですので、労働作業とは関係なしに、私たちが「おやつ」と感じている時間やイメージのことをナナッチャととらえている田野の人々もいました。

そんなナナッチャですが、時代が現代へと進むなかで生活環境の変化もあり、少しずつその習慣や言葉が薄れていくように。実際、私たちが聞きとりをしたところナナッチャという言葉を知っている人は若くても60代、そして農業や林業を生業としている人々がほとんどでした。

時代とともに言葉や習慣が変化していくことは自然の流れでもありますが、その土地の個性が消えてほしくないという気持ちもある。そして、ナナッチャだけではなく同時に失われていく文化もある。田野の人々と話していて、そんなことを感じとったのでした。何かしらの形で後世に伝え残していけるようなものをつくりたい。それは田野の人々と私たち共通の願いとなりました。

文化を“むすび”、人を“むすぶ”

田野に限られた話ではありませんが、昔から親しまれてきた習慣が徐々におこなわれなくなると、それを指す言葉も忘れ去られていってしまう。昔からある魅力的な文化を今に伝えようという活動は、多くの人々が試行錯誤しながらおこなっていることと思います。現在に生きる人々に受け入れやすい形で伝承していく方法はないか。そんな想いを乗せて誕生したのが、この「ナナッチャむすび」シリーズ。

ナナッチャむすびは、田野の生活文化を食で伝えることをコンセプトとしています。
ナナッチャの時間に小腹満たしとしておむすびを食べていたことにヒントを得ており、各味には田野の土地柄、そして風土から生まれた文化や習慣を落とし込んでいます。

現在のラインナップは「さのぼり鶏味」「お茶うまみ塩味」「石焼き魚味」の3種。
それぞれどんなものか説明すると、「さのぼり鶏味」は田植えのあとにみんなの労をねぎらうため貴重な鶏を使う「さのぼり」料理を参考にしています。だしの効いた一品。具がたくさん入っているので欲張りさんにはおすすめです。
「お茶うまみ塩味」は自宅で栽培したお茶を自分たちで釜炒りして飲む習慣があったことからインスパイア。お茶の粉末とうま塩がいいアクセントになっています。
そして、川原で石を焼き、しとめた川魚と持ち合わせの野菜や味噌をまぜ、みんなであつまって食べる「石焼き」を再現した「石焼き魚味」。あぶった辛味噌とその香りが食欲をそそります。

それぞれの具材には、その文化やエピソードを象徴するものを使っています。そして、素材そのものを感じてほしいと保存料を使わないこだわりよう。

今の時代、労働の有様は多様化してきたこともあり、ナナッチャのようにみんなであつまってゆったりと休息する機会はないのではないかと思います。ですが、ちょっと一息入れたいときや、これから気合い入れて頑張ろうというときにこのナナッチャむすびを頬張って精をつけられてはいかがでしょう。口に広がる田野の風味が、いつもと違う力を与えるかもしれません。

私たちに馴染み深い「食べる」という行為を入り口として、田野で親しまれてきた文化を知ってもらいたい。さらに言えば、田野という土地を訪れてその空気や文化を体験していただきたい。ナナッチャむすびが文字どおり「むすぶ」存在になればいいなと願っています。

宮崎物産センターでこん村

住所 :
宮崎市田野町甲3102−3
TEL :
0985-86-5539
営業時間 :
11:00~15:00
火曜定休